MCR+三鷹市芸術文化センターpresents
太宰治作品をモチーフにした演劇公演 第13回
『逆光、影見えず』
病床にある男、目を強く瞑り、暗闇の中で銀粉を撒き散らす蝶々を追いかける。
追いかけるうち、自らは時を遡り、幼少期にまで辿り着く。
太宰治の作品「逆行」をベースに、どうにもならなかった男が「何がどうして」どうにも
ならなかったのかを、明るい罵詈雑言を交えて賑やかに振り返りつつ、結果、終末へと
進んでいく姿をユーモラスに綴る、若き異才・櫻井智也の描く太宰治の世界!
本公演は終了しました
2016年 6月24日(金)〜7月3日(日) 全11公演
上演時間 約1時間40分(途中休憩無し)【全席自由】 (日時指定) (整理番号付) |
会員 前売2,600円・当日2,900円 一般 前売3,000円・当日3,300円 学生2,000円(前売・当日とも) 高校生以下1,000円(前売・当日とも) *早期観劇割引・平日マチネ割引の公演は、会員・一般のみ各300円引き。 |
* | 中学生以上の方は公演当日に学生証または年齢が確認できるものをご持参ください。 |
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500円、対象:1歳~未就学児、定員10名、要予約(2週間前まで) *未就学児は入場できません。*7/2(土)のみ |
【作・演出】 | 櫻井智也 |
【出 演】 | 小野ゆたか(パラドックス定数)、岡田瑞葉、川島潤哉、 堀 靖明、日栄洋祐(キリンバズウカ)、三瓶大介、川村紗也、 後藤飛鳥(五反田団)、道田里羽、 櫻井智也、おがわじゅんや、北島広貴、伊達香苗 |
【お客様にお知らせ】
出演を予定しておりました岡田瑞葉さんは、体調不良のため降板することとなりました。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、何卒ご了承いただきまして、公演をお楽しみいただきますようお願い申し上げます。なお、公演は予定どおり24日初日にて上演いたします。
☆...早期観劇割引 ★...平日マチネ割引 【託】...託児サービス実施
太宰治作品をモチーフにした演劇
三鷹市芸術文化センターでは、三鷹ゆかりの太宰治を偲び、平成16 年より「太宰治作品をモチーフにした演劇」公演を上演してまいりました。これは太宰作品(小説や戯曲)をそのまま上演する、または、太宰作品をモチーフにしながら太宰のエッセンスに溢れたオリジナル作品を作り上げるという企画で、今年で13回目となります。
メインモチーフ作品:太宰 治 『逆行』
1935年(昭和10年)発表。「蝶々」「盗賊」「決闘」「くろんぼ」という全四篇で構成されている。同年、第一回芥川賞の候補作となるも、受章は逃がした。翌36年刊行の、太宰治の第一創作集『晩年』に収録された。
【劇団「MCR」プロフィール】
1994年に脚本・演出の櫻井智也を中心として、当時同じ専門学校に通っていた数人により結成。最近では下北沢を中心に「軽妙な会話」で紡ぎつつ「悲劇的状況をも喜劇に転化させる」作品を上演しています。CoRich!舞台芸術まつり2009に於いてグランプリを受賞。2010年、三鷹市芸術文化振興財団主催のMITAKA “Next”Selectionに参加。2012年度サンモールスタジオ最優秀団体賞を受賞。(「貧乏が顔に出る。」)どこに向かうか問われたならば、俺こそがそれを知りたいと答える、そんな劇団です。
HP|http://www.mc-r.com Twitter|@gekidan_mcr
【今回の公演に寄せて、櫻井智也さんからのメッセージ】
若い頃、ゲームセンターでバイトしている時、バイト中に太宰の小説を読み漁っていたことを思い出します。なぜあの時、猛烈に太宰にのめりこんだのか、仕事中にあんなにのめりこんで、何故バイトをクビにならなかったのか不思議ですが、太宰にはきっと「何事を置いても太宰」という求心力があるんだと思います。
求めて吸い込んだ分、吐き出したいと思います、頑張ります。
【櫻井智也 プロフィール】
MCR主宰。MCRに於いてほぼ全作品の脚本・演出・出演、MCRの他にもプロデュースユニット「ドリルチョコレート」主宰。脚本「ヘブンズコール」にて、平成24年度文化庁芸術祭賞ラジオ部門の優秀賞を受賞したほか、「ただいま母さん」にて第二回市川森一脚本賞候補にノミネートされるなど、外部舞台の脚本・演出やラジオドラマ脚本、テレビドラマ脚本など活動の幅を広げている。

太宰治の作品「逆行」をベースに、どうにもならなかった男が「何がどうして」どうにもならなかったのかを、
明るい罵詈雑言を交えて賑やかに振り返りつつ、結果、終末へと進んでいく姿をユーモラスに綴る、
MCR公演『逆光、影見えず』。
その公演を前に、作・演出・出演の櫻井智也さん、出演のおがわじゅんやさん、
北島広貴さんに、お話をうかがいました。
今回上演していただくのは「太宰治作品をモチーフにした演劇公演」企画でございますが、作家の櫻井さんご自身の、太宰治作品体験を教えてください。
櫻井智也櫻井 今から15年くらい前、20代の中頃に、ゲームセンターでアルバイトをしていた時期があったのですが、そこがもう驚くほど暇な店で(笑)。深夜に一人で店番をしていたのですが、お客さんなんて全然来なくて、時間を持て余してしまって本ばかり読んでいたんです。まあ、本を読むのは好きでしたし、さらに偶然、隣が本屋さんだったので、興味が沸く本を探しては、手当たり次第に読んでいたのですが、ある時ふと「まあ、太宰でも読んでみるか」と。実はそれまで太宰はほとんど読んだことがなくて、なんとなく世間のイメージというか先入観に引っ張られて、自分には合わないんじゃないかと思っていたのですが、その時手にした『人間失格』が面白くて面白くて、もうびっくりしてしまって。感銘を受けるとかいうよりも、その面白さに素直に笑ってしまったんです。今読み返してみても、『人間失格』って、語られているエピソードのすべてが、ただただ面白い。しかも太宰の文章って、ものすごく読みやすくて「なんだこれ、最近の作家が書いたのか?」ってくらい、文章がいちいち軽やかだし(笑)、会話の進め方も、小説の構成も、とにかく軽快だなあと。
そこから、太宰作品を数多く読まれたのでしょうか?
櫻井 そうですね、まさに
その太宰作品の中から、今回の公演のメインモチーフに選ばれたのは、太宰の初期の短編『逆行』(昭和10年)ですね。
櫻井 昔読んだ時から好きだった作品ではありますが、今回読み直してみて「あっ、これだな」と。太宰の初期の小説って、作品全体に「満たされ無さ」が漂っていて、すごく「喉が乾いている」感じがするんですよ。もちろん太宰にもいろいろな時期があって、もっと精神的に追い詰められている頃の作品もありますが、(初期の作品は)何かを表現したくて堪らなかった時期だったのか、それとももっと単純に、世に出たくて仕方なかった頃ということなのか、激しい「満たされ無さ」や「喉の乾き」が伝わってくるんです。そしてその感覚は、自分が日々抱いている思いに、とても近いんですね。そのあたりを突き詰めていく中で、今回、自分が描きたいと思っていたことに重なっていて、心に一番しっくりきたのが『逆行』ということで、この作品をメインモチーフに選びました。
『逆行』以外に、モチーフの候補となった作品はありましたか?
櫻井 『富嶽百景』(昭和14年)とかね、かなり心に引っかかっていたんですが、今回読み直してみて、もちろん面白かったのですが、今自分が温めている作品の構想とは少し違うなと。やはりイメージが一番湧いたのは『逆行』でしたね。
劇団員のおがわさんは、「三鷹で太宰作品をモチーフにした舞台を作る」と聞いた時、どう思われましたか?
おがわじゅんやおがわ まずは先程、櫻井が「太宰を好きになって、友達にも勧めまくった」と言っていたのですが、私は勧められた覚えが無いので、長い付き合いですが、友達として認められていなかったんだなと(笑)。劇団員として苦楽をともにしてきたつもりだったのですが、少なからずショックを受けています(笑)。まあそれは冗談ですが、実は私の住んでいる町にも玉川上水が流れていて、この川で太宰が入水自殺をしたというのは知っていたのですが、割と水量が少ないので、どうしても入水のイメージが湧かなかったんですね。
当時の玉川上水は、今と違って水量も多く、雨が降ると、流れもかなり速かったようです。
おがわ なるほど、それで合点がいきました。勉強になりました(笑)。まあそれは置いといて、櫻井の作品と太宰は結構合うと思いますし、櫻井自身、原作がある作品をモチーフに舞台を作るのはあまりないことだと思うので、今回、「太宰という縛り」がある上で、どんな作品を生み出すのかは、すごく楽しみですね。
北島さんは、いかがですか?
北島広貴北島 まずは私も、劇団員として長く付き合っておりますが、櫻井から太宰を勧められたことは一度もありませんので、「ああ、そういうことだったのか」とショックを受けております(笑)。まあ太宰というと、一番よく言われるイメージかと思いますが、「ダメ人間」が描かれている作品が多いというのが脳裏に浮かぶのですが、我が劇団MCRも、結構「ダメ人間」が登場しますので(笑)、間違いなく合っていると思いますね(笑)。
今回の『逆光、影見えず』どんな作品になりそうですか?
櫻井 上手く伝わるかどうか分かりませんが、人間関係や、人の心の動きを描く一本のラインを進めながら、それと同じ方向に、人と人との距離感や、全く別の感情が、もう一本同時に走っているような作品にしたいと思っています。もちろん人間は、表と裏の二面性どころではなく、三面も四面も、いやもっと複雑な感情を抱えている時があるのですが、例えば、「いつもその相手のことを敬って、その人を立てて、献身的に振る舞っている」人がいるのだけれど、実は「その人には言えない、ものすごい背信行為を働いているからこその、従順な振る舞いだった」とか・・・。そういう人間関係って、太宰作品にも多くみられますし、時に背反するほどに同時進行する心の揺れを、丁寧に書いてみたいと思っています。
タイトルはすぐに決まったのでしょうか?
櫻井 割と早かったですね。浮かんだ瞬間に「これだな」と。モチーフに選んだ太宰の小説『逆行』からイメージを膨らませているうちに、ちゃんと光が当たっているんだけど影が見えない、そういう人生ってあるよなあと思い当たって、なんか今回の登場人物のイメージに嵌ったんですよね。
光が当たっている人生のその下に、もうひとつ、目眩ましされているが如く、きちんと見えない、影のようなラインが流れていて・・・という人物像を温めていく中で、自然とタイトルが浮かび上がった感じです。
今回、櫻井さんからいただいた作品紹介の文章の中に「病床にある男、目を強く瞑り、暗闇の中で銀粉を撒き散らす蝶々を追いかける。追いかけるうち、自らは時を遡り、幼少期にまで辿り着く。」という一文がありましたね。
櫻井 『逆行』という作品は4つの掌編で出来ているのですが、その中の『蝶蝶』という作品をもとに書きました。実は僕自身、小さな頃からの
お父様のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。
櫻井 父は正月に家族を集めて、自分の半生を語り始めたのですが、ただ、なんかその時に、「この人まだ余裕があるな」と思ったんですね。「最後に言っておく」みたいなことを言ってるけど、「まだ最後だと思ってねえな」と。悟ったような顔で告げている一本のラインの下に、まだ生への執着のあるもう一本のラインが走っているなと。そんな人間らしさに満ちた父の姿が、強烈に焼き付いているんです。案の定、臨終の直前には周り中に当たり始めて、母が「はいはい」と返事すると「返事は一回でいい!二回繰り返すな!」と怒鳴ったり。とても悟った人の言う言葉では無いですよね(笑)。死への向き合い方は、もちろん人それぞれだと思うんですが、今回、私自身、父の「向き合い方」をしっかりと見たぞと。それは間違いなく作品に反映されるのではないかと思いますね。
偶然ですが『逆行』は、臨終間近の男の話から始まりますね。
櫻井 でもね、その「父の半生」の話なんですが、なんというか、もう驚きの連続でね。例えば、父はすっと大卒と言ってたんだけど、語り始めた半生では「高校を卒業し、◯◯に就職」って、「ん?大学は?今、大学言い忘れた?」って思ったら、実は高卒だったんですよ(笑)。でもまあ、別に父に問い質したりせず「親父が見栄を張ってたのかなあ」くらいに思っていたんですね。ところが後でお袋に聞くと「昔、お父さんに『息子には大卒って言っとくね』と言ったら『おお、判った』って言ったから、すっと『お父さんは大卒』ってことになった」と。なんだ、親父の見栄じゃなくて、お袋の見栄に親父は付き合っただけだったのかと(笑)。ん?でも、そういえば、櫻井家では毎年正月に箱根駅伝を見ていて、「お父さんの母校だから」とお袋、あの大学を応援していたぞと(笑)。で、親父もそれを一緒に見ていたけど、お袋が応援していた時、親父はどんな気持ちだったんだろうと(笑)。そう思うと胸が「キュッ」と締め付けられるような気がしてね(笑)。一本のラインの下の、もう一本のライン、凄すぎるだろうと(笑)。そういうね、長年連れ添った夫婦じゃないと分かり合えないような、人の
ありがとうございます。では最後に、皆様からお客様へのメッセージをお願いします。
北島 いつもよりじっくり稽古をして、完成度の高い作品を上演できればと思います。どうぞお楽しみください。
おがわ 毎回、何かにチャレンジしていて、常に前回の舞台を越えようとしてきたMCRの舞台に、今回もぜひ、期待してもらえたらと思います。
櫻井 太宰に夢中になった20代半ばの頃、ただ自分から向き合うだけだった太宰に、今回この作品を作ることで初めて、少しだけ正面切って向き合える日が来たような気がして、本当に嬉しいです。基本的には、自分が太宰作品に感じた「面白すぎる。笑ってしまう」という気持ちに忠実に、いつもの自分らしく書いていければと思っています。決して太宰に臆すること無く、いつも通り、笑いの多い舞台を作れればと思います。ぜひお越しください。
本日はありがとうございました。
インタビューアー 森元隆樹(三鷹市芸術文化センター 演劇企画員)