普通の人の普通の会話が、知らず知らずのうちに少しずつずれていき、
皆が皆、自分だけは正しいと信じこんでいる。
それは、他人から見れば滑稽なことかもしれないけれど、その人にとっては、とても大事な話。
そんな、どこにでもある、けれど、ここにしかない舞台。水素74%。
その、癖になる会話劇を、お楽しみください。
本公演は終了しました
2013年4月20日(土)〜29日(月・祝) 全10公演
【全席自由】 日時指定 整理番号付 |
【会員】前売2,200円・当日2,500円 【一般】前売2,500円・当日2,800円 シニア 及び ユース【会員】前売1,700円・当日2,000円 シニア 及び ユース【一般】前売2,000円・当日2,300円 高校生以下1,000円 |
* | 早期観劇割引4/20(土)、4/21(日)・平日マチネ割引 4/25(木)の公演のみ、上記料金から500円引き。 |
* | シニアは65歳以上、ユースは25歳以下(いずれも公演当日の年齢)。 |
* | 高校生以下、シニア及びユース料金でご観劇の方は、公演当日に 学生証または年齢が確認できる証明証をご持参ください。 |
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500円、対象:1歳~未就学児、定員10名、要予約(2週間前まで) *4/27(土)のみ *未就学児は入場できません。 |
【作・演出】 | 田川啓介 |
【出 演】 | 兵藤公美(青年団)、斎藤淳子(中野成樹 +フランケンズ)、 浅野千鶴(味わい堂々)、斎田智恵子 |
【アフタートーク開催】 | |
以下の2ステージ終演後に、作・演出の田川啓介がゲストをお招きしての アフタートークを開催いたします。 4/23(火) 19:30 ゲスト:ノゾエ征爾氏(はえぎわ主宰) 4/25(木) 15:00 ゲスト:高橋泉氏(脚本家・映画監督/映像ユニット「群青いろ」) |
【田川啓介 & 水素74%】
2010年10月に旗揚げ。劇団員を持たないプロデュースユニットの形式を採る。
主宰の田川啓介は、自作戯曲「誰」にて第15回劇作家協会新人戯曲賞入賞、
劇団昴に同戯曲を提供。
vol.1「謎の球体X」がMITAKA "Next" Selection 12thに選出される。
性格に過剰や欠損を抱えた登場人物、ねじれた関係性、虚構と現実が混ざり合い
区別できなくなるような物語世界が特徴。
【作・演出の田川啓介さんからのメッセージ】
わたしは、「生きるとはなにか」とか、考えても利益にならないような無駄なことばかり毎日考えていて、それを作品にしています。
たぶんわたしみたいにヒマじゃない人は忙しくて中々そういうことをじっくり考える時間もないのではないかと思います。
でもたまになら立ち止まって、そういう無駄なことを考える時間をつくることもいいものですよね。
そういう時間を星のホールでつくりたいと思います。
自分が持つ人間関係の全てを、
一度解除してみたいという欲求に駆られることがあります。
しかし、それを実現することはわたしにはできません。
仮に今の関係から逃れられたとしても、また別の新しい関係が出来て、
それもまた解除したくなってしまう気もしますしね。
人は関係の網の目の中に生きているから、
どこまで行っても関係から逃げることはできないんですよね、たぶん。
それでも人は、関係からの休息を夢見てしまうと思うんです。
──田川啓介
【水素74%「半透明のオアシス」インタビュー動画】
※JCN武蔵野三鷹「MITAKA ARTS NEWS ON TV」で放映されたものです。YouTube で見る
2011年9月 三鷹市芸術文化センターでの公演【謎の球体X】より上演台本(抜粋)
春江…大家さん。増美…春江が貸している一軒家の住人。春江とは同級生。
2人は30代くらい。春江は、増美の夫婦仲を心配している。
春江 それよりほんとに大丈夫なの?
増美 ええ、大丈夫ですようちは、
春江 ほんとに?
増美 ええ、大丈夫です、
春江 大丈夫じゃないよ、
増美 いや、ほんとに大丈夫ですから、
春江 だから大丈夫じゃないんだって、
増美 だってあたしがそう言ってるのに、
春江 そんなの信じられないよ、
増美 どうしてですか?
春江 だってあなた大丈夫大丈夫って言って屋上から飛び降りたじゃない、
増美 それはだって、もう昔の話じゃないですか、だって中学の時ですよ?
春江 あたしあなたの言葉を信じちゃったけど、ほんとは全然大丈夫じゃなかったんでしょ?
増美 あの時はそうですけど、
春江 あたしあの時あなたを見殺しにしちゃったんだよね?
増美 いや、でもあたしは今こうして生きてるわけだから、
春江 でも死んだかもしれないでしょ?
増美 でも実際生きてますから、
春江 でも死んだかもしれないじゃない?
あたし死んだかと思ったよ、あなた血まみれになって手も足も首も
全部あり得ない方向に曲がってるんだもん、
それに内蔵もしっちゃかめっちゃかに飛び出してたじゃない?
増美 でも無事だったんだから、
春江 あたしもう二度とあんな思いしたくないよ、すごい罪悪感だったんだよ?
増美 それは、なんかすいません、
春江 だからね、あたしもう二度とあなたのこと見殺しにしないから、
増美 二度とって、あたし死んでません、
春江 いやあたしの中であなた1回死んでるから、
増美 死んでませんよ、
春江 いやだからあたしの中でだから、
増美 やめてくださいよ、勝手に、
春江 安心してよ、もうあなたの言葉なんか信じないから、
増美 だけど、今は大丈夫なんですよほんとに、なんの問題もないんです、
春江 だから大丈夫だよ、
増美 はい、
春江 そんなの絶対信じないから、
増美 ああ、
春江 うん、
『忙しく歩き続けていると、ちゃんと歩いているのに、自分が今歩いているんだということを感じられなくなってしまう時がありますよね』
●田川さん率いる「水素74%」は、三鷹のホールには一昨年秋(2011年9月MITAKA “Next” Selection参加「謎の球体X」)以来2度目のご登場となります。前回は演じるスペースも客席もすべて、三鷹のホールの舞台面だけを使った大胆な作品で、ご来場のお客様も、まずは舞台セットに驚いてらっしゃいましたね。
田川 普段は小さな劇場で公演していることが多いので、三鷹のホールは広くて大きいですが、そこをあまり意識せず「とにかく普段通り作ろう」と思って、平常心を心掛けて作りました。
●一度、三鷹のホールを経験された上で、今回はどのような作品をお考えですか。
田川 今回は、前回よりも空間を大きく掴まえられたらと思っています。ただ、自分の中での「普段通り」は変わらず、気負うことなく作りたいですね。
●今回の作品の着想はどのあたりにあったのでしょうか?
田川 友人の女性に旅行が大好きという人が多いのですが、僕は旅行というと修学旅行くらいしか行ったことがなくて、しかもそれが嫌で嫌で仕方なかったし(笑)どうしても泊まるのなら学校でいいんじゃないかと(笑)というか、人と一緒に泊まるってのがそもそも嫌で(笑)。だから「どうして休みの日に、友人と旅行に行きたいって思うのだろう」と率直に不思議に思ったのが最初です。その女性たちは「休暇が取れたら旅行に行きたい」「風景が変わるのが楽しい」「見たこと無い景色を見たい」って言うのだけど、せっかく休めるのに、なぜわざわざ旅行をして疲れに行くのかなあと。「友達や家族と一緒に泊まりに行くって、気を遣って疲れてしまうだけじゃないだろうか」という思いが僕にはあって。そのあたりの人間関係や、人にとって心から休むってどういうことだろうって考えたのが、今回の作品のきっかけですね。そこから女性4人が一緒に旅をする話が膨らんでいきました。
●タイトルの「半透明のオアシス」とは?
田川 女性の友人同士の旅行……と考えた時、浮かんだのが温泉でして、僕の中で温泉って濁ってるイメージがあるのと、温泉に行くと疲れが取れるという前提で行ってるのだけれども、意外と逆にストレスを溜めてしまうんじゃないか、すなわちオアシスなんかじゃないんじゃないかという思いから「半透明のオアシス」というタイトルにしました。ですからずばり、温泉の意味ですね(笑)
●田川さんにとっての休息とは?
田川 今の世の中、とにかく人と繋がってないと不安で仕方ないってくらい、携帯電話やメールやツイッターなどで、人間関係に追いかけられていますよね。だから、僕の考える休息っていうのは、もう誰にも合わずに、すべての情報ツールを断ち切って、家にいてじっとしていることではないかと思うのです。実際のところ「もうこれ以上人と繋がらなくてもいい」「時には人との繋がりから逃げたい」と考えている人は、すでに非常に多いのではないかと思います。だけど、すべてを長期間断ち切ってしまうと、それは引き籠るということになってしまいますし、社会性を失うということになるので、その思いの狭間で気持ちが揺れ続けている人もいるのではないかと。そのあたりを考えていく中で、人間にとって真の休息とはなんだろうと考えたのが、確実に今回の舞台のひとつのテーマになっています。
●田川さん自身は、そういう休息を取られていますか?
田川 難しいですよね(笑)最初は「もう疲れた。もう誰とも連絡を取らずにしばらく休むぞ」なんて思っていても、しばらくすると「メールが全然来なくて淋しいな」と思ったり(笑)時に自分の周囲の人たちから離れたいと思っても、今の自分の人生にとってその人たちが重要であることははっきり判っていたり。ですから僕自身、人間関係から逃げたいという思いと人間関係の中で生きるんだという思いの間で常に揺れている感じですし、そういう人って多いと思うんです。そのあたりの想いを丁寧に綴ってみたいと思います。
●その上で、今回、女性だけの4人芝居にされた理由は?
田川 本で読んだんですけど、引き籠りって圧倒的に男性のほうが多くて、でも一旦引き籠ると女性のほうが徹底しているらしいんです。それだけ、女性のほうが人と関わっていたいという想いが強く、そして一旦その針を振り切ってしまうと、繊細であるがゆえに、感情の根が深いんだなと。女性の中には、何かを得るためにコミュニケーションを取るのではなく、コミュニケーションそのものが目的になっている人も多いですし。だから今回のテーマを描くには、やはり複数の女性のみの集団である必要があったのと、僕自身が男性ですから「理解し難いことが多いからこその、女性心理へのアプローチ」に挑みたかったというのがあります。
●今回ご出演いただく4人の役者さんを選ばれた理由は?
田川 いずれも上手な俳優さんであるということはもちろんなのですが、年齢にばらつき……というかグラデーションを付けたかったんですね。20代半ば、30歳くらい、30代半ば、40歳くらいと。その思いで選んで行った時に今回の4人の方が浮かび、役どころとしては順に、斎藤さん、浅野さん、斎田さん、兵藤さんにお願いしようと思っています。
●どんな内容になりそうですか?
田川 凄く仲が良かった、というか仲が良い以上の強い結びつきに思えた友人2人が、あることをきっかけに仲が完全に切れてしまっていたのだけれど、今回、その2人の仲をなんとかしようと、周りの人間が仲介しようとするが何ともならなくて……という感じです。世の中の多くの人は、“家族だから、夫婦だから、友人だから、仲良くするのが当然”って思い込んでいるんじゃないかと思うことがあって、でもそれは僕の中では幻想であって、時にその関係を修復するために「旅行にでも行こう」という発想が出てきたりするのだと思うのですが、環境を変えたところでどうにもならないものはどうにもならないと。そのあたりの嘘の無い心の動きを描きたいですね。
●田川さんが演劇を続けていらっしゃる、その源はどこにあるとお考えですか?
田川 今の世の中、皆さんストレスが凄いのか、電車の中とか、時々殺気立っているような気がするんです。昔と違って迂闊に注意もできませんし、ちょっと体が当たると睨まれたり。だから皆、相手を怒らせないように気持ちを譲って譲って……でもそのストレスが溜まりきってしまった時の攻撃衝動って凄いと思うんですよ。だから信じられないくらい悲しい事件も続発していて。そんな世の中で、僕自身は偶然ですが演劇と出会って、世界と自分の間に漂うもやもやしたもの、そう、ひとつ間違えば現実的な攻撃衝動になってしまうことを、妄想や虚構の世界に置きかえて、舞台で発露しているという感じです。
●なるほど。田川さんは大学に入ってから演劇を始められたのですよね。
田川 高校時代は俗に言う帰宅部でしたし、本すら読まなかったですね。で、日本大学芸術学部に入ってから演劇の世界を知って、いつの間にか本を読むのが好きになっていきました。やがて、自分でも脚本を書いて舞台を作ってみたくなったのですが、大学の授業では自分が書いた台本を上演する機会が無かったので、劇団を旗揚げして、学外の劇場を借りて公演をしたのが最初です。
●脚本と演出ですよね?
田川 ええ、そうです。授業でやらされた時以外、役者はやったことないです。
●台本は、稽古をしながらどんどん書き直すほうですか?
田川 書き直しますねえ。僕自身のアイデンティティとして、演出家よりも劇作家だという意識が強いので、実際に俳優に演じてもらって、この俳優にはこの言葉じゃないなという時に“とにかく言葉通りにやってもらって演出で乗り越えていく”という手法もあると思うのですが、僕自身は“その俳優を通して発せられる最適な言葉をどんどん探していって、どんどん変えていく”タイプだと思います。特に稽古の序盤でその俳優に合う言葉を掴んでいくので、前半とか導入部分を何度か書き直すことが多いですね。そして、すべての俳優の感触を掴んだら、後は一気に書いていったりします。
●そして、その後平田オリザさん率いる劇団「青年団」に入団されますね。
田川 大学を卒業して2年経った時で、丁度自分の劇団も解散してしまい、一緒に演劇をやっていた人たちが周りにいなくなってしまったんですね。そんな時、青年団演出部の募集を目にして、演劇を続けることができるかもと思い、入団面接を受けて合格しました。入団した理由としては、それまでずっと仲間内だけの評価で、中には「面白い」と言ってくれる人もいたのだけれど、身内では無い外部の人の目にジャッジしてもらいたいというのがあって、その点、青年団という劇団は入団したからといって何かをしてくれる訳ではなくて、自分で公演を打って結果を出さないと1年後に退団という可能性があったので、そういう厳しい環境の中で作ってみたい、自分の演劇が通用するのかどうか試してみたいと思ったのが大きな理由でしたね。
●やがて新たに劇団「水素74%」を作られて、三鷹では2回目の公演となります。今回の「半透明のオアシス」はどんな人に観てもらえたらと思っていらっしゃいますか?
田川 僕は例えば「生きるとはなにか」とか、考えても利益にならないような無駄なことばかり考えていて、たぶん僕のように暇ではなくて、毎日忙しく働いていらっしゃる方は、中々そういうことをじっくり考える時間がないだろうなあと思ったりするんです。でも、忙しく歩き続けていると、ちゃんと歩いているのに、自分が今歩いているんだということを感じられなくなってしまう時ってありますよね。だから、お客様にとって「今、自分は歩いているなあ」ときちんと感じられる、きっかけになる舞台になればと思っています。ですから、たまには立ち止まってそういう無駄なことを考える時間を作りたいなあという方や、忙しい毎日の中でふと立ち止まるポイントを作ってみたいと思っている人に、ぜひ観てほしいなあと思います。あと、僕の理想は、僕の作る芝居によってその劇場が「教会」のような場所になればと願っています。日常の延長としての卑俗な場所では無く、まるで教会で祈りを捧げている時のような神聖な場所であり時間になればと。快楽を与えることはできないけれど、ふと、自分と向き合える場所を提供できるような舞台になればと。あくまでも理想ですが(笑)
後は、僕の舞台は、なぜか割と年配の男性のお客様が多いので(笑)いえ、もちろん年配の男性に観てもらえるのは本当に嬉しいし、有難いことなのですが、なぜか女性のお客様になかなか来ていただけないので(笑)今回は女性4人芝居ですし、女性の心の行方を丁寧に描くつもりでおりますので、ぜひ、女性の方にも観てほしいですね。お待ちしています。