鮮烈な同時代性を感じさせる舞台で、今、高い評価を受ける松井周の処女作が、待望の再演。
次世代の作家として注目を浴びる松井周の世界を、ぜひこの機会にご覧ください。
劇団 サンプル
その作品世界は、価値を反転させることと空間・身体・時間の可能性を探り続けることを特徴としている。
2008年8 月に上演した『家族の肖像』が第53回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされた。
劇団サイト:http://samplenet.org/
[チケット発売日] 会員4/10(金) 一般4/17(金)
本公演の客席は通常と違う配置になります。
本公演の客席図は、こちら[PDF: 68KB]でご確認いただけます。
2009年 5月15日(金)〜5月24日(日) 全11公演
【全席指定】 | 前売:会員=2,700円 一般=3,000円 当日:会員=3,000円 一般=3,300円 前売当日とも 高校生以下1,000円 |
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500円、対象:1歳~未就学児、定員10名、要予約(2週間前まで) *未就学児は入場できません *16日(土) 昼の部のみ託児あり |
【作・演出】 | 松井 周 |
【出 演】 | 辻美奈子、古舘寛治、古屋隆太(以上サンプル・青年団) 羽場睦子、吉田 亮、野津あおい、坂口辰平(ハイバイ) 山村崇子(青年団) ほか |
性機能不全の夫、親の介護にくたびれる妻、元同級生との不倫関係。一見、現代社会では生活の周辺にありふれた諸事情を抱える家庭に、一人の男が現れる。男の「ユートピアをつくる」という発言から形作られていく環境に支配される人間たち。
激しい舞台シーン展開、それとは裏腹にある俳優の繊細な芝居によるリアリティの探求を試みた作品。
*★の終演後に、松井周が下記ゲストを招いてトークを開催します。
15日 19:30 内野 儀
16日 19:00 岩井秀人(ハイバイ)
20日 19:30 岩松 了&徳永京子
21日 19:30 柴幸男(青年団演出部/ままごと)
【松井 周さんからのメッセージ】『通過』再演にあたって
『通過』という題名について6年前の初演時によく訊かれた。
意味がわからないからだと思う。僕としては通過儀礼の「通過」だったのだけれど、どちらかというと芝居の内容は「儀礼」の方に寄っていたかもしれない。
もちろん「儀礼」と言っても成人、結婚、出産、死などにかかわるものではなく、どこかいんちきくさいものであった。けれど、現代の私たちにとっての通過儀礼とはむしろ、そのいんちきくさいものに乗っかること、積極的に乗っかって成立させるものでしかないのではないか。
当時そんなことを思っていた。今はどうか?
今もそんなに変わらない。年をとった以外は。
『通過』という作品を読み返してみて、あまりにも今自分が感じていることと変わっていないことにびっくりした。技術の稚拙さはともかく、むしろ一つの完成形のようにも思えた。
「人間はそんなに変わらない」という言葉のネガティブともポジティブとも取れる両義性がこの作品を支えている。初演時はもしかしたらネガティブに引っ張られてしまったかもしれないのできちんともう一方にも引っ張りたい。その引き裂かれぶりがこの作品の愛嬌であり、希望なんだと思う。
Interview サンプル インタビュー
劇団「サンプル」の作・演出の松井周さん、出演の辻美奈子さん、古舘寛治さんにお話を伺いました。
──今回の作品は、松井さんの処女作(2004年発表)の再演とのことですが、当時、タイトルの「通過」に込められた意味はございましたか?
松井:一応「通過儀礼」の“通過”を意味してるんですが、芝居の内容的には、どちらかというと“儀礼”に重心が寄ってるかなという感じです。
──あまり最近は「これが人生の通過儀礼だ」とか、感じることが少ないような気がします。
松井:そうなんですよね。自分でもどういう通過儀礼を経て大人になってきたか、よく判らないまま生きてきたなあという思いはあって。自分が子供だった頃は、もっとこう大人になるということはドラマチックに通過儀礼的なことがあるんじゃないかと思ってたような気がするんですが、なんか気付いたら大人ってことになっていて。でも確実にあったはずなんですよね、今考えてみればあれがそうだったのかなあとか。その辺を意識しながら書いた覚えがあります。
松井:いえ、ほとんど初演のままですね。
──どんなストーリーか、少しだけ教えてください。
松井:とある若い夫婦が、夫の母親と同居して3人で暮らしているんですが、その母親が認知症で。そこにある日突然、妻の兄がやってきて、そのまま帰らず居座ってしまって・・・というあたりから物語は始まります。
辻:その妻の役です。今割と日常的によくある“介護”や“家族”の問題を抱え込んでいくこととなります。
──古舘さんの役は?
古舘:その居座ってしまう兄役です。トラブルの種というか、トラブルそのものといった役で(笑)
松井:人そのものがトラブルといった感じです(笑)
──そのあたりから松井さんが考える「通過儀礼」が見えてくるのでしょうか?
松井:そうですね、そのひとつではあると思います。人間は個人として生まれますが、否応無く他者と関わって生きていかざるを得ない、その中で他から来た人をどうやって受け入れていくのか、変わっていくのか。今までなかったものが日々の生活に入り込んできて、いつしか自分の思いとは違う方向にいってしまったり…そのあたりは意識して書きましたね。
──そういう掻きまわさていく日常というのは、演じていていかがですか?
辻:最初は、義母の介護の問題が会話の中心である、ごく普通の夫婦の日常なんですが、それがだんだん侵食されていくというか、そんなつもりはないんだけど変わっていってしまう…というあたりが見所のひとつになると思います。自分たちは変わっていくつもりはないんだけど、変わらされてしまい、気付いたら大変なことになっている。その描写は、観る人によっては滑稽に映ったり、時には悲劇と感じられたりするかもしれません。
古舘:演じていて思うのは、兄は確かに自分のしたいようにしていて、周りもそう思っているんでしょうけど、でも兄自身は“自分が望んでいるようにはこの場は変わっていない”と思っていると思うんです。そのあたりのそれぞれの人間が抱いている、噛み合わない思惑こそが、作家である松井が書きたかったことなんじゃないかと思います。
──そのあたり、ひとりひとりの思いが交差していくので、観客としても人それぞれ、いろんな人に感情移入できそうですね。「こういう人いるなあ。嫌だなあ」とか「妻頑張れ!」とか。
松井:そうですね。そう思ってもらえるように、丁寧に描いていきたいです。
──今回は、舞台のつくりもちょっと変わっているそうですね。
松井:演劇というのは、その場に来てもらって、その空間から何かを感じ取るのが一番の興奮というか醍醐味だと思っていますが、今回は特に、劇場に入った瞬間から、その舞台空間にびっくりしていただけるんじゃないかなと思います。三鷹の劇場で公演を行うのは2回目なんですが、客席も可動し自由にスペースが使えるので、いろいろなことができて、想像力も広がっていきますね。
──では、最後に松井さんのほうから、お客様へのメッセージをお願いします。
松井:僕自身の処女作ではあるのですが、その後何作か書いた後で読み返してみると、後の作品がこの「通過」にすべて繋がっているというか、自分の書きたいことが最初から全部入った、すなわち凝縮されてぎゅうぎゅうに詰まった作品だなあと思います。それを今再演するということで、月並みな言い方ですが、初心に戻るじゃないですけど、改めて自分のやりたいことを確認する作業にわくわくしていますし、自分の書きたいことが凝縮されているこの作品を、ぜひ観に来ていただきたいと思います。多分、びっくりしていただけるんじゃないかなと思う舞台空間で、皆様をお待ちしています。