1月14日にピアノの横山幸雄さんとのデュオ・リサイタルを行う、ソプラノの森麻季さん。11月にはブルガリアのソフィア国立歌劇場の日本公演、ヴェルディの「リゴレット」でヒロインを演じるなど、世界的にご活躍中の森さんからメッセージをいただきました。 |
── 声楽の道を歩み始めたきっかけはいつ頃、どんなふうにでしょうか? |
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はじめは国立音楽大学の付属小学校にピアノ科の生徒として通っておりました(母も音楽が大好きでしたので、ピアノが弾けるようになるといいなぁと音楽学校への進学を勧めてくれました)。学校の先生方の勧めもあり、色々な楽器に触れるようになり、ヴァイオリン、オルガン、クラリネットなども習うようになりました。中学生の時、合唱の小さなソロパートを頂いたきっかけに、音楽性を伸ばすためにも「声楽を勉強してみたら?」と音楽の先生から勧められ、高校生になって始めて声楽というものに触れるようになりました。最初はイタリアの古典歌曲やトスティなどを勉強しましたが、美しいメロディーにすぐ虜になって、歌うことがとても楽しく感じました。それまではピアノを必死に勉強していて、才能もなかった為、音楽は私にとって難しいもの、苦しいものという印象もあったのですが、歌をきっかけに楽しいものに生まれ変わり、それが今の仕事にも繋がり、自分を見出す道ともなったので、とても幸運だったと思っております。 |
── 今回のプログラムはオペラのアリアあり、日本歌曲ありで、
森さんの魅力を堪能できる内容ですね。 |
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2006年1月がモーツァルトの生誕250年ということで前半はモーツァルトの美しい声楽作品を選びました。
後半は皆さんも良くご存知の日本歌曲とヘンデルの悲しく美しいアリアなどを選びました。いずれの曲も私が申し上げるもなく素晴らしい作品なのですが、とうとうと流れるメロディーを味わって頂いたり、その中に絶妙に散らばされたコロラトゥーラ(※)をお楽しみ頂いたり、日本歌曲では、歌詞の情景を思い浮かべながらお聞き頂ければ幸いです。 |
── これまでの活動歴の中で、“岐路”だったと思われるのは、どんなことでしょうか? |
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それはイタリアとドイツに留学しているときにぶつかった色々な試練や壁でしょうか。留学するまでは、小さいころから勉強してきたという延長線上に音楽というものがありましたが、苦い経験をするうちに、どうして音楽を続けるのかという自問自答をさせられ、考えさせられました。そういう中で、自分が日本人でありながら西洋音楽を志す目的、自国の文化とは違うオペラなどを勉強し続けていく意味などを見つけて現在に至りました。もし留学をしていなかったら、今とは全く違う考えや、感覚で歌っていたのだろうと思います。 |
── 森さんはコロラトゥーラの技巧を得意とし、
ご自身でも「デリケートな声」ともおっしゃっていますが、
声のコンディションのために特に気を付けている習慣などはありますか? |
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声のための特別な手入れ方というのはないのですが、敢えて申し上げれば、声を無理に押さないようにすることです。風邪や、体調を崩すことも大敵ですので、体を冷やさないようにすること、温かいものを取るように心がけています。あとはのどを乾燥させないようにすることくらいでしょうか。声を出すことは肉体労働でもあるので、しっかり休むこと、食べること、そして体を鍛えていくことも大切だと思っております。 |
── 共演者の横山幸雄さんの印象をお教え下さい。 |
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横山さんのピアノは、ソロとして聞かせて頂く時、いつもダイナミックで、深く、真に迫る音でドラマティックに音楽を創り上げ、かつ、星が煌くような美しく繊細な音でパッセージを奏で、本当にスケールの大きな音楽の持ち主だといつも感動しております。はじめは一ファンとして横山さんのソロを聞かせて頂いておりましたが、こうして共演して頂く機会を得るようになって、私の小さな音楽への語りかけが、大きな翼を持って舞い上がれるようで、偉大なソリストとの共演を楽しみにしております。 |
── 3年前に風のホールへご出演いただきました。どんな感想をお持ちでしょうか。 |
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本当に素晴らしい響きのホールで、宗教曲なども教会で歌っているかのように神聖な響きに包まれたのを覚えております。今回の公演でも風のホールの美しい響きの力を借りて、世紀を超えて受け継がれる深い音楽を誠心誠意お伝えできればと思っております。 |
ドミンゴも「透明感のある、特別な声」と絶賛したように、歌い上げるタイプではなく、軽やかな声質を持ち味として、今では世界のオペラハウスから声がかかる国際的なソプラノ歌手となった森さん。3年前と比べても幾重にも成長して大輪の花となった森さんの歌声を風のホールでぜひお聴き下さい。 |
※コロラトゥーラ:高音域で音を転がして歌う、極めて高度な技術が要求されるソプラノの技法。 |